死亡事故の逸失利益
交通事故で、被害者の方が亡くなってしまうと、当然のことながら、その方が今後働いて得られたであろう収入は、得られなくなってしまいます。
この、被害者が亡くなってしまったことで得られなくなった収入を埋め合わせるためのお金が、死亡事故の逸失利益です。
事故前の収入に、死亡時の年齢から就労が可能な年齢(原則67歳)までの年数(に対応するライプニッツ係数)をかけあわせるところまでは、後遺障害の逸失利益と同様です。
※およそ55歳以上の高齢者(主婦を含む)については67歳までの年数と平均余命の2分の1のいずれか長期の方を就労可能年数とします。
ただ、死亡事故の場合は、死亡後の収入が得られなくなる反面、生活費もかからなくなるため、将来の生活費を差し引く必要があります。
これが「生活費控除」と呼ばれるものです。
生活費控除の割合は、被害者の属性により以下のように考えられています。
生活費控除率
- 家の支柱:30~40%を収入額より控除
- 女子(主婦・独身・幼児を含む):30~40%を収入額より控除
- 男子(独身・幼児を含む):50%を収入額より控除
これを見ると、女性よりも男性の方がより多く生活費として消費するという考え方が取られており、男性にとって不公平と感じられるかもしれません。これは、一般的に男性と比較して女性の収入が低いことによる調整の意味合いがあります。
これらをまとめると、死亡事故の逸失利益の算出方法は以下の通りになります。
死亡事故の逸失利益の算出方法
逸失利益=年収×(1-生活控除率)×(就労可能年数に対するライプニッツ係数)
また、死亡事故の逸失利益の算出は、被害者の職業によって算出方法が異なります。
①収入を証明できる場合
交通事故前年の収入(税込み)
源泉徴収票や、確定申告書控により事故の前年の収入を証明できる人は、基本的に事故の前年の収入が年収とされます。
②主婦
主婦の方については、基本的には、年齢、学歴の関係のない、すべての女性の平均賃金が年収となります。
平成23年で355万9000円、平成24年で354万7200円です。
パートなどお仕事をされながら主婦をされていた方であれば、実際の収入とこの女性の平均賃金を比較して、高い方が年収とされます。
③幼児、学生など
幼児や学生には実際の収入はありませんが、将来的には収入が得られたはずですから、年収がゼロという判断は通常されません。
基本的には、年齢、学歴の関係のない性別ごとの平均賃金が、年収となります。
死亡時に高校卒業見込みであったり、大学卒業見込みであったならば、それぞれ高卒者の平均賃金、大卒者の平均賃金が年収となります。
なお、年少の女性(おおむね15歳以下)については、男女計の学歴、年齢の関係のない平均賃金が年収とされるのが一般的です。
年少の女子は、将来男性並みの収入を得る可能性もあったのに、「女性」であるという理由だけで、男性と比較して低い女性の平均賃金が年収として用いられるのは不公平だという考え方に基づきます。
④事故当時無職であった人
事故当時無職であっても、これから就労する可能性が高かったことを証明できれば、年齢ごとの平均賃金を年収として逸失利益が認められます。
これから就労する可能性が高かったと言うためには、過去の就労実績が重要視されます。学校卒業以来、働いたことがなかったような方であれば逸失利益は認められないでしょうが、事故の半年前に退職し、求職中であったような方であれば、逸失利益が認められるでしょう。
死亡事故の逸失利益は、計算式に当てはめれば形式的に算出されるようなものではなく、亡くなられた被害者の方お一人お一人の事情により基礎となる数値が異なり、結果として賠償額が異なってきます。
亡くなられた被害者の方に代わって適正な賠償金を受け取るためにも、弁護士にご相談されることをお勧めします。